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執筆者の写真Akira Sugawara

TOP CUT BARBERS


 3月1日にロンドンに着き、2日にはホームステイ先の友人の家に着きました。なぜイギリスに友人がいるかというと、日本にいるとき、英語の勉強方法として、Language Exchangeというのをやっていました。お互いの言語を教えあうというものです。ホームステイと言っても2週間くらいだけで、近くのサロンを探して、勉強しようと思っていました。どんなサロンでも構わないと思っていました。こんなよくわからん人間を受け入れてくれるのであれば。1軒目に寄った美容室には断られてしまいました。歩いて10分圏内に7つほどの美容室や床屋がありましたが、1軒目に断られ、早くも不安と緊張が交差して、なかなか2軒目の店に入れずいました。ふらふら歩いていると、1つの小さな床屋に目がいきました。お店の名はTOP CUT BARBERS。お店は小さく、店の中には椅子が4つあった。外装も内装もこだわっているわけではなかったが、1度通り過ぎたあと、再び戻ってとりあえずお店に入った。なんでそのお店に入ったのかは今でも分からない。なにか心が動く何かがあったのかもしれない。

その近くにもあちこちお店があったが、その店に入った。お客さんが3人ほど待っていたので、この忙しさが終わってから話を聞いてもらおうと思って、座った。

 自分の番になって、自分の知ってる単語を並べて、一生懸命説明した。自分が何者なのか。どういう経緯でここにいるのか。いろいろ話したと思うが、あまり内容を覚えていない。するとおじさんは「わかった。そこに座って見ていなさい」と。

まさか2軒目で決まるとは思わなかった。すごく嬉しかった。知らないことを学べるわくわく感で満ち溢れた。インド人の彼の名前はハディ。髭がボーボーだったからおじさんだと思っていたが、全然おじさんと呼べる年齢じゃなかった。心の中で謝った。でも14歳で床屋で働き、17歳でお店を開いたのだから、驚きである。経験値はおじさんで間違いない。

 少しお店が落ち着くと、「アキ、俺の髪を全体5mm切ってくれ」とハディ。全体をハサミでカットした。「悪くないね」。見ず知らずの人にいきなり自分の髪を切らせることにびっくりした。またお店が忙しくなると、1人の男の子のカットをいきなり任された。

「サイドとバックをNo.2でトップを No.5」

「え?!」

その前にハディの施術は見ていたが、初見でできるものじゃない。ましてや美容室で働いてきて、バリカンやクリッパーを使ってデザインするというのをしてこなかった。見よう見まねと不安なところはハサミでカットしたが、最後はハディが調整してくれた。僕が働いていた美容室ではクリッパーと使うときは、2ブロックとサイドや産毛処理くらいだったが、ここでは最初から最後までクリッパーのお客さんなんてたくさんいる。この一瞬でクリッパーの奥深さと可能性を見せつけられた。初日にして、精神的プレッシャーと新情報の処理で心と脳がクタクタになった。結果的にここには2週間ではなく2か月もお世話なった。友人もいつまでもいていいよと言ってくれたので助かった。イングランド生活のスタートは最高の形になりました。

 よくいろんなところを転々とするより、1つ場所で長くいる方が良いと言われる。僕もそう思っていた。でもそれは転々とするタイミングと仕事のジャンルによるかもしれない。基礎がない状態で、転々しても各場所で違うことを言われ、混乱してしまう。昔から引き継がれてきたもの、伝統のようなものは、長年の経験の蓄積と、鍛錬から生まれるものだと思う。そのようなジャンルにおいては1つの道を歩き続けたほうが、険しい道でもそのうちその道の歩き方が分かってくるかもしれない。しかし反対に、長年培われたものや刻まれた感覚を、自分がすべて正しいと思ってしまうことは少しもったいないと思う。すべてが正しいと思うがゆえ、新しいことを受け入れない。自分の考えをまげないのは新しいものを得るチャンス、成長するチャンスを潰すことになるやもしれません。

 ここまで世界に広がっている美容というジャンルにおいて、知らないことが多すぎる。人種が違えば、髪質、髪色、肌質すべてが違う。そうなってくると使う技術も道具も違う。美容というジャンルは縦幅も横幅も広い。だからいろんなものを知った方が面白い。転々と言っても、転々とする距離が遠いですが。

 僕のいた美容室は、基礎を徹底的に厳しく教えてくださいました。もちろん自分の基礎が完璧と言っているわけではなく、基礎に対しての不安がないということ。もちろんまだまだ実力はありません。努力は必要です。よく言えば不安がなく、知識や感覚がこびりついていない状態だったので、個人的には新しい情報をクリアな状態で受け入れることができています。

 かつてのオーナーは頑固者とは何かと人に説いていました。ある人は自分の意思をまげない人。ある人は自分を貫く人と答えました。一般的にもそう考える人が多いと思います。しかしオーナーは首を横に振り、頑固者とは自分の信念を変えず、自分を変化させる者と答えました。自分の信念や野望は頑固でいい。でも物事を柔軟に考え、絶えず自分を変化させなさいと。

 まさにこのことを言っているのだと思います。よく悩んだりしたとき、一歩引いて全体を見てごらんと言いますが、とても必要なことだと思います。でも時にはサイドステップをして、角度を変えてみても面白いかなと思います。


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